« 秋の七草 | トップページ | 百人一首 九十番歌 殷富門院大輔 ミセバヤ »

2016年9月22日 (木)

修行者と羅刹

Image

youtu.be/X-2BLPx_38I

***

チャンネルアジャーで、私の大好きなお話がありましたのでご紹介いたします。
⬆︎の動画では、ねず先生が講談のように面白くお話されています。
ねずブロでも昨年アップされてます。

***
国民学校「初等科国語八」から、一文をお届けします。
いまで言ったら、小学6年生用の教材です。
文はねず式で現代語に訳してあります。
比較的短い文ですので、まずはご一読してみてください。

********
nezu621.blog7.fc2.com/blog-entry-2725.html
国民学校「初等科国語八」七
【修行者と羅刹(らせつ)】

 色はにほへど散りぬるを、
 わがよたれぞ常ならむ。

どこからか、そんな歌が美しい声で聞こえてきます。
ところは雪山(せっせん)の山中です。
長い長い難行苦行に、身も心も疲れきつた一人の修行者が、ふとこのことばに耳を傾けました。

修行者の胸に、言い知れぬ喜びがわきあがってきました。
それはまるで、病人が良い薬を得たとき、あるいは喉の乾いた者が清涼な冷たい水を得たのにもまして、大きな悦びでした。
羅刹は首を振りました。
「だめです、行者さん。おまへは自分のことばっかり考えて、人の腹の減っていることを考えてくれない」
「おまえは何を食べるのですか」
「びつくりしちやいけませんよ。わしの食べ物というのはね、行者さん、人間の生肉、それから飲み物というのは人間の生き血さ」
と、言うそばから、さも食いしんばうらしく、羅刹は舌なめずりをしました。

しかし、修行者は少しも驚きませんでした。
「よろしい。あの言葉の残りを聞かせてくれるなら、私の体をおまえにやってもよいです」
「えっ。たつた二文句ですよ。二文句と、行者さんのからだと、取りかえっこをしても良いと言うのですかい?」

修行者は、どこまでも真剣でした。
「どうせ死ぬべきこのからだを捨てて、永久の命を得ようというのです。何でこの身のいとうことがあるでしょう」
そう言いながら、彼はその身に着けてゐる鹿(しか)の皮を取つて、それを地上に敷きました。
「さあ、これへお座りください。つつしんで仏の御言葉を承りましょう」

羅刹は座に着いて、おもむろに口を開きました。
あの恐しい形相から、どうしてこんな声が出るかと思われるほど美しい声です。

 有爲(うゐ)の奥山今日(けふ)越えて
 浅き夢見し酔ひもせず

と歌ふように言い終わると、
「たったこれだけですがね、行者さん。でも、お約束だから、そろそろごちそうになりましょうかな」
と言って、ギョロリと目を光らしました。

修行者は、うっとりとしてこの言葉を聞き、それをくり返し口に唱えました。
すると、
「生死を超越してしまへば、もう浅はかな夢も迷いもありません。そこに本当の悟りの境地があるのです」
という深い意味が、彼にはっきりと浮かびました。
彼の心は喜びでいっぱいになりました。

この喜びをあまねく世に分(わか)って、人間を救わなければならないと、彼は思いました。
彼はあたりの石といわず、木の幹といわず、今の言葉を書きつけました。

 色はにほへど散りぬるを
 わが世たれぞ常ならむ
 有為の奥山今日越えて
 浅き夢見し醉ひもせず

書き終ると、かれは手近にある木に登りました。
そのてっぺんから身を投じて、羅刹の餌食(えじき)になろうといふのです。

木は、枝や葉を震はせながら、修行者の心に感動するかのように見えました。
修行者は、
「一言半句の教えのために、この身を捨てるわれを見よ」と高らかに言って、ひらりと樹上から飛びました。

とたんに、妙(たえ)なる樂(がく)の音が起こって、ほがらかに天上に響き渡りました。
と見れば、あの恐しい羅刹は、たちまち端嚴な帝釋天(たいしやくてん)の御姿となって、修行者を空中にささげ、そうしてうやうやしく地上に安置しました。

もろもろの尊者、多くの天人たちが現れて、修行者の足もとにひれ伏しながら、心から礼拝しました。
この修行者こそ、ただ一筋に道を求めて止まなかつた、ありし日のお釈迦(しゃか)樣でした。

« 秋の七草 | トップページ | 百人一首 九十番歌 殷富門院大輔 ミセバヤ »

日本人の心」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1969016/67611149

この記事へのトラックバック一覧です: 修行者と羅刹:

« 秋の七草 | トップページ | 百人一首 九十番歌 殷富門院大輔 ミセバヤ »